※本記事はネタバレを極力避けて感想を書いています。

とある書籍紹介のサイトでお勧めとして見かけた書籍。図書館に行く度に在荷検索して、常に貸し出し中だったのがようやく順番が回ってきました。

結果、3日で読んでしまったので、かなりハマったんだと思います。不妊治療に絡む部分は私が妻と一緒に苦しんだこともあり、親側の気持ちに非常に共感しました。しかし…それは…最後に触れます。 「禁忌の子」が指し示すのは親側なのか子供側なのか。

話の内容は医療の現場経験がないと表現できないと思える部分もあり、非常に勉強させてもらいました。

2024年に発表されたばかりの作品でありながら、鮎川哲也賞の満場一致受賞、そして2025年本屋大賞4位という結果からも分かる通り、多くの読者・書店員の心をつかんだ一冊です。

著書紹介・作品概要

山口未桜著『禁忌の子』は、2024年10月に東京創元社から刊行された長編ミステリ小説です。第34回鮎川哲也賞を満場一致で受賞し、著者のデビュー作にあたります。 刊行翌年の2025年本屋大賞では第4位にランクインし、週刊文春が選ぶ「2024ミステリーベスト10」国内部門でも第3位に選出されるなど、数々の文学賞・ランキングで高く評価された話題作です。

📚 書籍データ

  • 著者:山口未桜
  • 刊行:2024年10月(東京創元社)
  • 受賞:第34回鮎川哲也賞(満場一致受賞)
  • ランクイン:2025年本屋大賞4位、週刊文春2024ミステリーベスト10(国内部門)3位
  • ジャンル:本格ミステリ/医療サスペンス
  • ページ数:318ページ(四六判上製)
  • 著者について:現役医師・小説家

著者の山口未桜は1987年兵庫県生まれ。神戸大学を卒業し、現在も医師として臨床の現場に立ちながら小説を執筆しています。 本作は現役医師の視点だからこそ書ける、医療現場のリアルな空気と、生殖医療にまつわる倫理的な問いを土台にした、まぎれもない「医療×本格ミステリ」です。

タイトルの「禁忌」という言葉には、宗教的・社会的に禁じられた行為という意味とともに、医学用語としての「特定の症状に対して、ある治療や投薬をしてはいけないこと」という意味も重ねられています。 読み終えたとき、このタイトルが選び抜かれた一語であるかを思い知らされます。個人的には「近畿」ともかけているのでは、とも思いました。

登場人物とあらすじ

主人公と事件の発端

主人公は、兵庫県の病院に勤める救急医・武田航。ある日、搬送されてきた一体の身元不明の溺死体と対面した武田は、我が目を疑います。 その遺体は、自分と瓜二つだったのです。似ている、というレベルではありません。まさに「瓜二つ」。事故なのか自殺なのか、あるいは別の何かなのかも分からないまま、遺体は「キュウキュウ十二」という符丁で呼ばれることになります。

旧友の医師・城崎響介という探偵役

武田は、中学校時代からの旧友であり、同じ病院に勤める消化器内科医・城崎響介とともに、遺体の正体と自身との関係を探り始めます。 この城崎というキャラクターが、本作の大きな魅力のひとつです。感情の起伏はあるものの、それを自分の内側に長く留めておくことができない、どこか浮世離れした人物として描かれています。

調査の過程で、城崎は武田に対して「自分にそっくりな人間が死んでいると、具体的には何が怖いのか」と静かに問いかけます。普通のミステリであれば、 探偵役が依頼人にこんな踏み込んだ質問をすることはまずありません。しかしこの問いこそが、事件の本質へとつながる糸口になっていきます。

過去と現在が交錯する調査

調査を進める中で、鍵を握る人物に接触しようとした矢先、その人物が密室状態の中で死体となって発見されてしまいます。 事件は一気に不穏さを増し、武田自身の出生や生い立ちにまつわる過去へと、物語の焦点は移っていきます。生殖医療、体外受精、そして「親になる(武田の妻は妊娠中)」という行為の重みが、 少しずつ物語の水面下から浮かび上がってきます。

一般的な感想・評価のポイント

現役医師にしか書けないリアリティ

本作最大の武器は、著者が現役医師であることに由来する圧倒的なリアリティです。救急の現場、医局の空気感、医療倫理をめぐる議論。 どれもフィクションとして「作られた」感じがせず、実際にその場に立ち会っているかのような緊張感があります。 専門的な内容も多いですが、物語のテンポの良さのおかげで、医療知識のない読者でもすんなりと読み進められます。 自身は知識が無いので、一卵性双生児と二卵性双生児の違いは別途調べることになりました。

「自分と瓜二つの遺体」という圧倒的な謎

ミステリとしての導入部の強さは特筆すべきものがあります。「自分そっくりの遺体」という、それだけで背筋が寒くなる設定から始まり、 そこに医療というリアルな専門性が組み合わさることで、単なる謎解きに終わらない重層的な物語に仕上がっています。

デビュー作とは思えない構成力

過去の伏線が終盤に向けて次々と繋がっていく構成は、ミステリー好きにはたまりません。 各章の終わりに読者を揺さぶる仕掛けが施されており、続きが気になる中毒性があります。 生殖医療というテーマと、本格ミステリとしての精緻なロジックが、見事に両立しています。

賛否の分かれるラスト

結末については、読者の間でも受け止め方が分かれる部分かと考えます。 すべてがきれいに収まる「ハッピーエンド」ではなく、命の在り方そのものに関わる決断が描かれるため、 人によっては強い抵抗を感じるかもしれません。しかし、それこそがこの作品の誠実さでもあると感じました。

個人的な感想 ── 不妊治療を経験した親から見た視点

正直なところ、冒頭の「瓜二つの遺体」という設定を読んだ時点で、私は勝手にホラー的などんでん返しを予想していました。 ドッペルゲンガーに出会うと死ぬ、というよくある俗説が頭をよぎったのを覚えています。 しかし読み進めるうちに、当初想定と全く違った話の展開になりました。

生殖医療の話の中で、印象に残ったのは「そこに子供自身の意思はなく、あるのは親側の思いだけ」という部分です。自身は流産が続き(後で不育症ということが分かりました)、 妻と養子縁組や離婚の話まで至るぐらい悩みました。確かに子供を授かる為の行為は親側だけの思い・・・でした。しかしその時は「子供を授かりたい」ただその思いだけでした。 そのため、禁忌の手段を利用する判断をした親側の気持ちを否定する気持ちにはなれません。

ただ、その結果は親側がすべての責任をとれるわけではなく、子供にツケが回る可能性があるということを当時の私は考えが至っていませんでした。 そのことを痛感させられ、改めて親としての責任の重要性を感じました。 終盤に明かされる真相には、賛否あるだろうと感じました。しかし私自身は、この結末を選んだ著者の姿勢に、むしろ誠実さを感じました。 安易な救済ではなく、登場人物たちが自分たちの意思で選び取った未来を描くという姿勢は、令和という時代だからこそ描けたものかもしれません。

禁忌の人の子なのか、禁忌の赤ん坊なのか、近畿の作者なのか、いまだに謎です。(笑)

最近少し距離を感じている長男とも、もう少し歩み寄ってみようと思います。

こんな人におすすめ

  • 論理的な謎解きが好きな本格ミステリファン
  • 医療・生殖医療・生命倫理といったテーマに関心がある人
  • デビュー作から新人作家を発掘するのが好きな人
  • 「家族」や「アイデンティティ」を問う物語に惹かれる人
  • 伏線が終盤で一気に回収されるカタルシスを味わいたい人

一方で、医療的・倫理的なテーマをかなり重く扱うため、軽い気持ちで読みたいときには少し覚悟が必要かもしれません。また専門用語もそれなりに登場するので、じっくり腰を据えて読むことをおすすめします。